マルチトラックの演奏タイミングを調節する

複数マイク録音のドラムキットやフルバンドといったマルチトラックのインストゥルメントを編集する場合、ソロ演奏の編集時よりも多少注意深く作業する必要があります。

マルチトラックのオーディオをストレッチまたはクォンタイズする場合、オリジナルの録音データのフェーズの関係を保持することが不可欠です。そのためには、すべてのトラックをまったく同じ時点でストレッチする必要があります。

AudioSnapには、個々のトラックのビート編集時にトラック間のフェーズの関係を簡単に保持できるツールが用意されています。

次の例では、AudioSnapを使ってマルチトラックのドラムキットをピアノトラックと一緒に編集する方法を示します。ドラムキットは3つのマイク（キック、スネア、オーバーヘッド）を使って録音され、それぞれが独自のトラックになります。

フェーズの関係を保ちながらマルチトラックの演奏のタイミングを調節する

次の図に、ある曲の最後の3音を示します。一番上のトラックがピアノで、残りのトラックがドラム（キック、スネア、オーバーヘッド）です。

図304. ドラムの音が速く、ピアノトラックと同期していない

A：ピアノトラック  B：ドラムトラック群

この図からは、ドラムの音が速くなり、ピアノのタイミングとずれていることがわかります。ドラマーは、小節の始めの時点ではピアノに合った演奏をしていました。それが、小節を演奏していくうちにフィルの演奏の間で速まり、次の3つのビートではピアノをかなり追い越しています。小節の先へ進むにつれて（ドラマーの演奏が速くなったため）、ドラムトラックのトランジェントマーカーが徐々に先走っていくのが見て取れます。

小節全体にわたってドラムトラックとピアノトラックのタイミングを合わせるため、ドラムの音とピアノの音の出だしを揃えます。

1.	コントロールバーでスマートツール を選択します。

2.	トラックの編集フィルターコントロールをオーディオトランジェントに設定します。

オーディオクリップにトランジェントマーカーとAudioSnapパレットが表示されます。

3.	3つのドラムトラックを選択し、編集したい場所の直前と直後で分割します。詳細については、クリップを小さく分割するを参照してください。

4.	キックとスネアのクリップだけを選択します。

5.	AudioSnapパレットで、分解能を1/16に設定します。

6.	ドラムのオーバーヘッドトラックだけを選択します。

7.	AudioSnapパレットで、スレッショルドを100%に設定してトランジェントが検出されない状態にします。オーバーヘッドトラックにはキックとスネアの両方のオーディオが含まれ、キック、スネア、オーバーヘッドのトラックをビートのストレッチ時に常に同期させたいので、この手順が必要になります。

8.	3つのドラムトラックをすべて選択します。

9.	選択したクリップのいずれかで右クリックして、ポップアップメニューから選択マーカーのマージ、ロックを選択します。

これで、3つのドラムトラックでまったく同じトランジェントマーカーが共有され、各クリップの位置がロックされました。

メモ：マルチマイクで録音したドラムパートのタイミングを修正する場合、通常、ドラムパートのすべてのトラックをまったく同様に修正する必要があります。これは、編集対象のドラムトラックに別のドラムの音がもれて録音されている場合が多いからです。たとえば、スネア用のマイクがハイハットの音も拾っている場合に、ハイハットのクリップを移動したらスネアのクリップもまったく同じように移動する必要があります。そうしないと、ハイハットトラックのハイハットの音とスネアトラックのハイハットの音が競合することになるからです。 ドラムオーバーヘッドトラックやルームアンビエンストラックなど、他のオーディオトラックからもれた音を拾っているトラックがある場合、常にそのトラックに個々の近接マイクトラックとまったく同じトランジェントマーカーがあるようにする必要があります。まず、該当するオーバーヘッドトラックやルームトラックのトランジェントマーカーをすべて無効にし、選択マーカーのマージ、ロックコマンドを実行して個々の近接マイクトラックのすべてからトランジェントマーカーをコピーします。

図305. 選択マーカーのマージ、ロックコマンドで、同じトランジェントマーカーを3つすべてのドラムトラックにコピーする

これでドラムトラックを編集する準備ができました。

ピアノトラックのフィーリングを残したいので、ここでは3つのドラムトラック間のフェーズの関係を保ちつつ、ドラムトラックをピアノトラックに揃えることが目標となります。

演奏のタイミングを調節するために複数のトランジェントを編集する場合、セクション全体を単に前後に移動するのではなく、セクションの速度を上げたり下げたりすることが必要になる場合が多いでしょう。この例では、ドラムのフィルで速度が上がり、次の下拍が早くなりすぎています。これを修正して、ピアノトラックによりよく揃うように、ドラムのトランジェントを比例的にドラッグする必要があります。

10.	スマートツールを使って、すべてのドラムトラックについて最初の音から3音目の出だしまでのトランジェントマーカーをすべて領域選択します。

11.	Ctrlキーを押したまま、ドラムの3音目がピアノの3音目の出だしに揃うまで、選択したドラムのトランジェントマーカーをすべてドラッグします。

選択したトランジェントが比例的にストレッチされます。これで、ドラムとピアノの最初と最後の音の出だしが揃いました。ドラムがフィルの間に速まり次の下拍を打つのが早くなったという現象が打ち消され、下拍がかなりピアノに近いタイミングに揃えられました。

図306. ドラムとピアノの音の出だしが揃う

この段階ではドラムとピアノの2音目の出だしが近づいてはいますが、完璧ではありません。そのため、このビートについて単独で修正する必要があります。

12.	Ctrlキーを押しながら、ドラムの2音目の出だしにあたるトランジェントマーカーのいずれかをダブルクリックします。

ドラムの2音目のすべてのトランジェントマーカーが選択されます。

13.	選択したトランジェントマーカーのいずれかをピアノの2音目の出だしに揃うまでドラッグします。

これで、すべてのドラムトラック間のフェーズの関係が保たれたまま、3つのドラムとピアノの音の出だしがすべて適切に揃いました。

図307. 3つのドラムとピアノの音の出だしがすべて完全に揃う

オーディオをストレッチせずにフェーズ関係を保持する方法の詳細については、マルチマイクで録音したドラムをオーディオをストレッチせずにクォンタイズするを参照してください。

 

関連項目：

ソロ演奏のタイミングを調節する

同期していないトラックのリズムを同期させる

複数のクリップ/トラックのグルーブを作る

オーディオのクォンタイズ

プロジェクトのタイムルーラーにオーディオをクォンタイズする

オーディオクリップをグルーブクォンタイズする

オーディオクリップを別のオーディオクリップにクォンタイズする（展開されたマーカーにクォンタイズ）